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東京高等裁判所 昭和50年(ネ)2686号 判決 1976年1月19日

控訴人 佐藤京子

右訴訟代理人弁護士 紺野稔

村岡三郎

安藤良一

山上芳和

被控訴人 鈴木実

主文

本件控訴を却下する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人提出の控訴状の記載によれば、控訴人は、「(一)原判決を取り消す。(二)被控訴人の請求を棄却する。」との判決を求めるというのであって、控訴人は、本件控訴提起に関し、控訴期間を守ることができなかった同訴訟行為の追完を許されるべきであるとして、別紙記載のとおり主張した。

理由

本件控訴提起の適否について判断するに、本件記録および控訴人本人審尋の結果によれば、

(一)1  控訴人あての本件訴状副本および昭和五〇年五月六日午前一〇時の口頭弁論期日呼出状が同年四月九日午後二時二三分東京都板橋区仲宿六三番地七号明月ビル二階にあるスナック喫茶「パッション」(以下、本件スナックという。)において「雇人今野和幸」によって受領され(なお、右期日においては、控訴人不出頭の結果、口頭弁論が終結された。ついで控訴人あての同年六月一七日午後一時の口頭弁論(判決言渡)期日呼出状が同年六月三日午後八時五五分本件スナックにおいて「従業員伊坂直子」によって受領され、更に原判決が原審裁判所によって同年六月一七日午後一時言い渡され、同裁判所によって控訴人あてに送られた判決正本が同年七月一一日午後七時一五分本件スナックにおいて「従業員今野和幸」によって受領されたこと、

(2) 本件控訴が同年一二月二日当裁判所に提起されたこと、

(3) 控訴人は、前記各書類受領当時本件スナックには居住していなかったものの、右スナックは控訴人の経営にかかるものであって、控訴人は右各送達時ころは毎日のように午後九時ないし一〇時ころから同スナックに赴いて翌日午前二時ころの終業まで営業に従事していたものであり、前記今野和幸および伊坂直子の両名は本件スナックの前者はバーテン、後者はウェイトレスとしてそれぞれ控訴人に雇われ稼働していたこと

が認められ、他に以上の認定を動かすのに足りる資料はない。

(二)  以上認定の事実によれば、本件スナックは民事訴訟法第一六九条第一項にいう送達を受くべき者すなわち控訴人の「営業所」にあたるものというべく、また前記今野、伊坂の両名は同法第一七一条第一項にいう送達を受くべき者すなわち控訴人の「雇人」にあたるものといわなければならないので、原判決正本の送達等前記各送達は、いずれもいわゆる補充送達として控訴人に対し適法にその効力を生じたものということができる。

そうとすると、本件控訴は、特別の事情のない限り、控訴期間経過後に提起されたものというのほかはない。

(三)  ところで控訴人は、本件控訴提起は、控訴人の責に帰すべからざる事由によって不変期間である控訴期間を守ることができなかったので、その訴訟行為の追完が許されるべきであると主張する。

≪証拠省略≫および今野和幸の上申書によれば、控訴人の雇人である右今野は本件スナックにおいて裁判所からの送達書類(原判決正本)の交付を受けながら、これをそれ程重要な書類でもないものとひとりぎめし、毎晩のように同スナックに出勤してくる控訴人にその書類を渡しもしないばかりか、確実に渡るようなてだてもせず、また右書類受領の事実を伝えることもせず、そのままこれらを失念してしまったものであることが認められるが、前記(一)(3)認定事実をも参酌して考えると、右事柄による始末は、対今野との関係でしょせん控訴人がその責任において処理すべきものといわざるをえないから、このために控訴人が本件控訴期間を守れなかったとしても、その原因が控訴人の責に帰すべからざる事由によるものとはなしがたく、他に本件控訴が控訴人の責に帰すべからざる事由によって控訴期間を守れなかったことを認めるべき資料はないから、本件控訴の追完は許されないものといわねばならない。

そうすると、本件控訴は、結局控訴期間経過後に提起された不適法のもので、その欠缺を補正することができないから民事訴訟法第三八三条により口頭弁論を経ないでこれを却下することとし、控訴費用の負担について同法第九五条および第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 畔上英治 判事 安倍正三 唐松寛)

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